「こんばんは!誰かいますか?」

室内に呼び掛ける。

反応は無い。


人の気配が無いので留守かもしれない。


諦めて帰ろうとした時、『ぐわっ』という鳴き声が聞こえた。


あひるだ。


室内に、あひるのペスがいるみたいだ。


とりあえず、あひるだけでも捕まえて帰りたい。


私は、室内にこっそり侵入することにした。


「ペス!」


呼び掛けると、鳴き声が大きくなった。


電気が無いので室内は薄暗い。

ハジメに招かれた時は何も思わなかったが、かなり不気味だ。


あひるのペスは、お風呂場にいた。


水を張った浴槽で泳いでいた。


体は白く、くちばしが黄色いあひるだ。


「ペス。おうちに帰るよ」

ペスに優しく語り掛けながら、抱き抱えようとすると、突然、ペスが暴れだした。


羽をばたつかせるので、私は一瞬で水浸しになった。


「こらっ!ペス!」


ペスは、すごい勢いで、お風呂場から逃げて行った。


「ちょっと待ってよ!」

必死でペスに呼び掛けたが、完全に無視されている。


廊下を走り、ハジメのお母さんの部屋に入ってしまった。


その部屋には嫌な思い出がある。

なるべく入りたくなかったが、緊急事態なので仕方ない。