ブルーシートには《蒼の館》とマジックペンで書かれている。

丁寧だが汚い字だ。

ひじきさんが書いたのだろうか。


ブルーシートをめくると、薄暗い室内に、男が横たわっていた。

痩せて小柄な中年男性だ。
ひじきさんは、苦しそうにうなり声をあげている。


ひどい臭いがする。


「わぁっ。ひでーな」

弟が言う。


目を覆いたくなるような光景だった。


ひじきさんと呼ばれた男の、青あざだらけで腫れあがった顔は、ところどころ血がにじんでいる。


「足を燃やされたんだぁ」

ししゃもさんが言った。


ひじきさんの左足は真っ赤に爛れている。


「誰がそんなことを!?」

私が言うと、ししゃもさんは答えた。


「若者が、ホームレス狩りをしてるんだぁ」


「ホームレス狩り!?」


「十代の若い不良が、面白がって、わしらを痛め付けるんだぁ」


「なんのために!?」


「知らん」


「今までにもあったんですか?もしかしてあなたの鼻血も……」


「この鼻血は、ただのチョコレートの食べ過ぎだぁ。業務用チョコレートを拾って食べてたら、こうなったんだぁ」


「そうですか……」


「まぁ、こういうことはよくあるんだぁ。何ヵ月かに1度くらいはあることだぁ」


「犯人は捕まらないんですか」


「誰も真面目に犯人なんて探しやせんよぉ」


そう言うと、ししゃもさんは悲しい顔をした。


「じゃあ、さっそく始めるとするよ」

婆が言った。