人に見られたら恥ずかしいような本気の走りだったが、人通りの無い道だったので、誰にも見られずに済んだ。


あと一つ角を曲がれば駅という道で、私は走るのをやめた。


角を曲がると大きな通りに出るので、そこを走り抜けるのは恥ずかしい。

多分駅前は普通に人通りがある。


息を切らせながら、歩いていると、突然、体に衝撃が走った。


私はよろめいて、びしょびしょのアスファルトに倒れこんでしまった。


「痛……」


膝が痛い。

擦り剥いたみたいだ。


前を見てみると、黒いパンツに包まれた足が見えた。

スニーカーは、コンバースの黒だ。


ぶつかっておいて、ごめんなさいの一言も無いなんて、ひどい。


そう思って、コンバースの持ち主を睨み付けてやった。



その瞬間、血の気が引いていくのがわかった。


フルフェイスのヘルメットだ。



黒いヘルメットからは乱れた長い髪がはみ出ている。





そして、手にはナイフを持っていた。