平手打ちを目撃した成瀬は、持っていたバケツを落とした。
片付けようとしてたみたい。
会長は殴られ目つきが変わってる。
これは猫脱走してるね。
優香ちゃんはぼろぼろ泣いて……
この後無事で済めばいいけど。
さて、俺は……どうしよ。
まず動いたのは会長だった。
「……負けない?あんた、何か一つでもわたしに勝てることあんの?」
これまで聞いたことがないくらい低い声だ。
それにしても、論点そこ?
会長、そこに怒ってるの?
「あ、あるよ!」
自信がないのか、泣いているせいか、声を震わせる優香ちゃん。
俺ならたくさん列挙できるけど。
女の子らしいところとか。
優しいところとか。
「ないね。自分の男を繋ぎとめておけなかったことを他人のせいにするやつが、わたしに勝てるはずがない」
「ひど……っ」
関係なさそうなところで怒ってるのかと思えば、一気に核心をついてきた。
そっか。
会長モテるから、こういうことよくあるんだろうな。
遠くでは成瀬が呆然と佇んでいる。
俺が止めに入るべきなのか?
成瀬がいるのに俺が出るのはおかしい気もするけれど、二人を黙って見てるのも……
そのとき、会長がすっと右手を伸ばした。
「あっ」
ぺちん
「れ?」
その手が、優香ちゃんの頬で大きな音をたてると思った。
しかし聞こえたのはほんの小さな、可愛くも聞こえる音。
「わたしは相手のせいにも、他人のせいにもしないし、運のせいにもしない。
全部自分が悪かった。そう思う」



