「風の前の塵に同じ……」 春の風が俺を追い越し、少し前の俺を連れ去る。 去年暗誦させられた『平家物語』冒頭。 その最後の言葉を呟いた。 常なるものは無し。 風に吹かれてそんな言葉を思い出すなんて、俺もやはり日本人らしい。 秋山シンゴ。 今日から高校生。 たかが十数年しか生きていない俺でも知っている。 期待は多く、裏切られるものだ。 俺の目に映る桜は色褪せている。 それでも 未来に期待せずにはいられない 春―――