幸登と付き合ったのは、一年半ほど前。大学一回生の夏休み直前だった。


 入学してすぐに同じ学科同じコースだったことで話すようになった。

お互いの実家が近く何度か一緒に帰るようになり、気がつけば好きになってわたしから告白した。彼もわたしに好意を抱いてくれていたらしく、すぐに付き合うようになり半年後には大学までの移動距離が面倒くさい、という気持ちが一致して同棲を始めた。

 大学から一駅、駅から徒歩五分の2DK。カウンターテーブルのあるキッチンダイニングに、大きめのソファーとテレビを置いたリビング状態の一部屋、そしてダブルベッドのある寝室。

 好きな人と一緒に暮らす。それは想像するだけで楽しくて幸せで夢が溢れていた。

デートのあとに『バイバイ』を告げることなく、毎日同じベッドで眠る。気に入った家具やお気に入りの雑貨に囲まれて、お互いの趣味である映画を毎週一緒に観ようとか、月に一度は少しリッチなご飯を食べに行こうとか、そんな話をたくさんした。

「数ヶ月だけだったなあ……」

 ひとりきりのダブルベッドでごろりと寝返りをうって呟いた。

 映画を観るよりも彼はゲームが好きで休みの日はほぼテレビ画面とにらめっこをしている。それ以外の時間はネットカフェか居酒屋のバイトで忙しそうだ。

わたしは百貨店のケーキ屋のバイトで、主に深夜に働いている幸登とは平日、大学でしか顔を合わさないことも多い。冬休みに入って多少会話は増えたけれど、今日のように同じタイミングでベッドに入ることはほとんどなくなった。

 住み始めた頃は、バイト先の残り物のケーキだってもっと喜んでくれたのに。わたしの作ったクッキーやガトーショコラだって感動してくれていたのに。

最近では「おう」というよくわからない返事しかくれない。喜んでくれなければ作る楽しさも半減して、ここ数ヶ月はなにも作っていない。

 スレ違いが多くなると一緒に御飯を食べることがなくなって、料理をすることも減った。買い物に行っても自分の分しか購入しなくなったのはいつからだろう。


 嫌いになったわけじゃないし、彼の趣味に今更文句を言うつもりもない。お互い束縛もなく自由に過ごしながらもそれなりに仲よく過ごせることも、相手を疑うこともなくそばにいられることはとてもいい関係だと思っているし、大学の友人にだって言われる。

 だけど、ふと、思う。

 同棲なんてしないほうがよかったかもしれない。ずっと一緒にいるから、それを大事にできなくなったのかもしれない。


 羽毛布団に包まって、瞳を固く閉じた。


 今日は寒いから、そんなことを考えてしまうんだ。暖房の聞いていない寝室のベッドは、ひどく冷たくて、寂しくて、普段は気にすることのないことを考えてしまう。

 脳裏には、きらきらと輝きを放つ日々が浮かんだ。わたしの胸をちくりと傷ませる、幼いわたしが、そこで笑って、泣いていた。