ジャージだけでは寒すぎるグラウンドに、今日学校にきている三年が並ぶ。

校舎脇からグラウンドまでにある階段に、クラスごとに腰掛けて、前で話す先生の言葉に耳を傾けた。他の先生はグラウンドに白線を引いている。

 黒板にトーナメント戦の表を書いていて、ふたつのコートに分かれて試合をするように告げた。

全員が当たるまで、もしくは時間内でより多く残ったほうが勝ち。顔面はセーフだとか、外野に出ても内野に当てれば戻れるだとか、ドッチボールの簡単なルール説明を聞く。そして最後に景品があることを知って、みんなが一気に盛り上がった。

 元気だなあ。

 わたしは寒さのせいで今動くことさえ億劫なのに、よく見れば気合満点で半袖の男子がいることに驚く。半袖半パン。

「若いなあ……」ぽつりと呟く。
「なにが」隣から今坂くんが小声で言った。
「なに観察しながら『若いな』とか言ってんだよ」

 クスクスと笑われて、頬が赤くなる。「だって」と言いながら、そんなふうに拗ねる自分がまた恥ずかしくて、立てた膝とお腹の間に顔を隠した。

なんだか自分がすごい幼い。二十歳のわたしがいまのわたしをはたから見たら『青春だなあ』なんて言ってしまいそうだ。

「なに照れてんの? ほら、頑張ろうぜ」

 すっと、自然に手を差し出されて、戸惑いながらも自分の手を重ねた。

 誰かと、男の人と、こうして手がふれあうのは一体いつぶりだろう。彼氏と同棲をしていたけれど、ここ数ヶ月、デートで手をつなぐことだってなかった。久々の人の温もりに、じわりと自分の手が汗ばんだような気がする。

「ようし、優勝だな」

 わたしが立ち上がると、彼はぽんっとわたしの頭に手を乗せてから、友だちのところに駆け寄っていった。

 この年で、こんなに女の子に優しく出来るなんて、国宝級の存在じゃないだろうか。二十歳を過ぎたって、なかなかできることじゃないのに。

しかもなにがすごいって、彼の場合全くかっこつけた感じがしないところだ。

「いい感じじゃんー」
「そ、そんなことは!」

 いつのまにか背後に立っていた紗耶香がにやついた顔口元を隠しながらわたしを覗き込む。

「やっぱりちさも好きなんでしょ?」と今度は少し、優しく。

 その言葉の意味は、『セイちゃんと一緒で』ということだ。セイちゃん同様わたしも顔に出るタイプらしく、みんなにバレていたのだろう。セイちゃんも昨日話したとき『知ってた』と言っていたくらいだ。

 けれど、それを両方わかっている紗耶香と真美は、一緒だからこそ今までなにも言わなかなったのだろう。