きみと、もう一度

　着替えは女子と男女が別々の教室になる。隣の３組に紗耶香と一緒に着替えを持って教室を出た。男子はわたしたちの４組が更衣室になる。

「……今日、告白しようと思うんだ」

　ぽつりと聞こえてきた言葉にうまく返事ができなかった。

「まさかこんなことになると思ってなかったけど」

　あはは、と笑いながらも「その分話するタイミングありそうだよね」と真面目な顔つきをする。紗耶香は、言葉の通り、関谷くんに思いを告げるだろう。確か、返事は月曜日だったはず。

「うん、頑張って」

　曖昧な笑みを向けて応援したけれど、本心では止めるべきなのか悩んでいた。



　関谷くんと紗耶香は、卒業式の前日、月曜日から付き合い始めた。

月曜日の朝に、校門で待ち伏せしていた彼から返事をもらったと思う。関谷くんも紗耶香のことを気になっていたらしい。

　高校で離れてしまったけれど、ふたりは一年以上付き合っていたはずだ。けれど、ふたりがどんな別れ方をしたかを、わたしは知っている。

　関谷くんが紗耶香のことをどれだけ好きだったのか、わからない。

少なくともわたしは、そんなに好きじゃなかったんじゃないかと思っている。

付き合った当初は仲よかった。高校が始まるまでデートを何度か重ねていたし、高校に入ってからも学校帰りに待ち合わせしていた。けれど、それは数ヶ月の間だけ。

　別れる二ヶ月ほど前から、紗耶香はいつも泣いていた。


――『こんなことなら、告白なんかしなきゃよかった……！』

　関谷くんは高校でもモテた。サッカーが有名な共学の私立で、注目されていたという。

そこから、彼は浮気を始めた。どちらが本気かはわからない。ちゃんと別れるまでも何回かもう別れると喧嘩していた。それでも結局紗耶香は許してしまって、また同じことを繰り返す。

　何度か浮気相手の女の子から嫌がらせらしきものも受けていた。

　紗耶香は彼の話になるといつもいつも、苦しんでいた。別れたいのに嫌いになれないから、あのとき告白なんてしなければよかったんだと、口癖のように言っていた。

　それを知っているわたしは、今、紗耶香を応援していいのだろうか。

　かといって、後悔したくないから、という理由で告白する紗耶香を止めることもできない。

「どうしたの、ちな」
「う、ううん、なんでもない」

　ふるふると頭を振って、シャツに着替えてから水色のジャージを羽織った。