ひとりで向かう学校はいつもよりも少し遠かった。

 今日は公立受験の生徒はみんな学校を休んでいるから、クラスも半分くらいはいない状態だろう。

淀んだ空ではあるけれど、雨は振りそうにない。曇っているからか寒さも昨日よりもマシだった。受験に挑むみんなは、今頃受験校の教室で緊張しているのだろうか。


 教室に入ると、思った通り人数は少ない。

わたしよりも先に来ていた紗耶香が声をかけてきてふたりでホームルームが始まるまでセイちゃんと真美の話をしていた。

合格発表のあとはみんなでお祝いしようね、と盛り上がる。多分以前も同じ約束をしたけれど、もちろんそれは実現しなかった。わたしは紗耶香からの連絡でふたりが無事志望校に受かったことを知ったはずだ。

 今年は、お祝いできるといい。


「そういえば、体育着持ってきた? なにするんだろうねえ」

 昨日帰る間際に明日学校に来る生徒は体育着を忘れないように、と言われていた。

確か人数が少ないから授業ではなく、ドッチボール大会をするはずだ。全六組のトーナメント戦。

けれどなぜかそれを先生たちはサプライズパーティを計画するかのように黙っていたので、知っているわたしももちろん知らないふりをした。

今更ドッチボールなんて、と事前に伝えるとズル休みする生徒が増えるかもしれないと思ったのかもしれない。正直この寒い日にボールを当てられるのは辛い。

「どうかなあ」と返事をしたところで、担任がいつもより少し早めにやってきた。


 案の定、ドッチボール大会を告げると、クラスがざわめきに包まれる。「えー」とか「寒いのに」とか「めんどくせえ」とか、マイナスな発言ばかり。そんな中で教室にギリギリ滑り込んできた今坂くんが

「いーじゃん、優勝したらなにかあんの、せんせー」

と声を上げるとみんなの声は色づき始めた。

「優勝したらなー」先生の返事はその勢いを一層高めて、さっきまで嫌がっていた男子生徒は突然やる気に満ち溢れる。それが伝染するかのように女の子も少し楽しみそうに笑い始めた。

「オレがいるからには優勝だろ。任せろって! 優勝するから」

 今坂くんの、こういうところが好きだなあ。

 みんなの気持ちを一つにする上手さとか、何事も全力で取り組むところ。大きなことを堂々と口にして、それを達成させるために、全力でぶつかっていく。席に戻るとわたしにも「がんばろーぜ」と白い歯を見せた。