あのとき、わたしは素直に『わたしも』と言えばよかったんだ。

 セイちゃんに怒られるんじゃないかと、だってセイちゃんのほうが先だったから、と思ってしまったけれど、わたしはセイちゃんがそんなことで怒るような子じゃないと知っている。

 バレー部の試合でも、彼女は一度も手を抜かなかった。厳しい先輩との試合でも、遠慮なくコートを駆けまわり、リベロとしてサーブやアタックを拾ったし、おかしいことがあれば口にした。

怒られても自分の意志を変えることはなかったし、後輩にも同じことを求めた。

先輩だからとか、レギュラーだからとか気にしないで、おかしいと思ったことや直したほうがいいとおもうことは伝えてくれと、言っていた。

 だからこそ、はじめは先輩たちに嫌われていても、最終的には信頼を得ていたし後輩にはとても頼りにされていた。


 そんなセイちゃんに、下手くそな嘘を重ねるべきじゃなかったんだ。だから、セイちゃんは卒業と同時にわたしから離れていってしまったんだ。


 チャイムが鳴る。コートを羽織ってカバンを背負う。門の前にはいつものようにセイちゃんが笑顔でわたしを待っていてくれた。

「おはよー!」
「おはよ」
「あ、今日ヘアピンオソロじゃん!」

 セイちゃんの前髪にもわたしと同じストライプのヘアピンがついていた。セイちゃんのはピンクとホワイトで、わたしはピンクと水色の色違い。西大寺のならファミリーで一緒に買ったもの。

 ほんとだ、とふたりではしゃぎながら学校に向かった。はじめの話題はやっぱり昨日のドラマ。「ちなの言ってた通りだったね」とセイちゃんは興奮気味だった。

当て馬の彼の方が絶対いいもんね、と満足気に話している。

喋る度に息が白く染まっていく。今日は一段と気温が低い。けれど、緊張しているからかわたしはあまり寒さを感じなかった。


「ねえ、セイちゃん」

 コートのポケットの中でぎゅっと拳を握りしめて勇気を振り絞った。

「ん?」と目を大きく開けたセイちゃんがわたしを見る。その瞬間、強い風がわたしたちの間を通り抜けて、ふたりのマフラーが揺れた。

口から飛び出てきそうな心臓をぐっと飲み込むようにしてから、ゆっくりと紡ぐ。


「わたし、今坂くんが好きなの」


 初めて、言葉にした。

 心のなかで何度も叫んできたけれど、口にしたのは初めてで、吐き出した瞬間に涙がぽろりとこぼれてしまった。

涙を拭うために俯いてしまうと、顔を上げることができなくなった


 セイちゃんは今、どんな顔をしているだろう。

 怒っているかな、それとも、『知ってたけど』と笑い飛ばすだろうか。


 でも、きっとセイちゃんは『あたしも好き』と言ってくれるだろう。そう言ってくれると思っていたから、わたしは自分から告白をしたのだ。

同じことはしないと決めていても、セイちゃんに告白されてからでは素直に言える勇気が出ないかもしれないと思ったんだ。

 でも、やっぱり、怖い。