その刹那、
――“風春…”
風とともに聞こえたような気がした、愛しい人の声。耳を疑いながらも息を潜め、風音にじっと耳を傾ける。
――“風春…”
「雪乃…?」
でも。聞こえた気はするけど、もう聞こえるわけがないんだ。絶対に。
今のも絶対、俺の幻聴にしかすぎない。
マンガでもあるまいし、そんなオカルトチックなこと、起き得るわけがないのだ。あまりにも彼女を想いすぎて、頭が混乱しているからに違いない。
―――だけど。
例え幻聴であったとしても、それは俺の耳にしっかりと聞こえて。
その声が俺に、いつまで引きずっているのかと、笑っているようにさえ思えてくる。
――“風春は、風春の道を歩んで”
いい加減吹っ切れと、呆れたように笑う雪乃の姿が、俺の頭の中でフラッシュバックした。

