『契約』恋愛


口から出かけた言葉をぐっと飲み込むと、中沢が再びゆっくりと口を開いた。


「雪乃が何を思って、何を背負って生きてきたか知らないくせに、雪乃が何考えてるかわかんないなんて、そんな酷いこと言わないで。」


苦しそうに、ぎゅっと唇を噛みしめた中沢を見て、やっぱり俺は何か大切なことを知らないのだと、改めて感じた。

“佐山君は何にも知らない”

そう言われているようで、悔しくて、余計心が痛む。

――だけど。


「わかんねぇよ。
楽しそうにしてたくせに、いきなり大嫌いとか言ったり。言ってるくせに泣きそうな顔したり。訳わかんねー…。」


矛盾した言動に、混乱する思考。
思い出す度、さらにわかんなくなるんだ。

でも中沢は、まるで何でもないことのように、さらっと言葉を紡ぐ。


「それは雪乃なりの、佐山君への優しさだよ。」