「ありがとうございました。」
皆が顔を上げてから、北条先生は言った。
それからは、1年早い卒業式のような光景が広がった。
北条先生の周りを沢山の生徒が囲んだ。
「妃奈、」
阿紗子は尋ねるようにあたしの名前を呼んだ。
「先に帰ってて。」
「待ってようか?」
「ううん。
あの様子じゃ時間掛かりそう。」
輪の中心にいる男を見て言った。
「どうしても言わなくちゃいけないの。
今日言わなくちゃいけない事が。」
あたしは彼の家を知ってる。
言ってしまえば、何時でも言いにいける。
だけど、今日じゃないとダメ。
あたしが言いたい事あるのは、北条昴じゃないから。
皆が慕ってる、北条先生だから。
「分かった。」
阿紗子は鞄を持った。
「みやびちゃんを迎えに行ってくる。
2人で最後にお礼を言おうって言ってたから。」
「うん。
じゃあバイバイ。」
「バイバイ。」
あたしは阿紗子の後ろ姿を見てから図書室に向かった。
本当に暫く時間かかりそうだし。



