「…」 「先生、今、何だよ?」 「何でもない。」 「何でもなくねぇだろ?」 「…今…」 「…」 「…妃奈って呼んでくれたね。」 嬉しかった。 涙がまた零れそうな程 嬉しかった。 だけど、あたしの声はとても小さかった。 目の前の人に届いたかも分からないような、小さな声だった。 「…妃奈。」 「…」 あたしは黙って彼の顔を見た。 「今夜だけは、妃奈って呼んでいいか?」