左手は常闇を這う【短編】



今の私に分かることと云えば。


“彼”が消えてしまったことと、


それから……


毎晩、鏡の中の常闇で私の左手首が這いずり廻ること。



おそらく“彼”が最後に云った台詞は

『僕には帰る場所がない』

だったのだろう。