左手は常闇を這う【短編】



そこで私は、私の左手首に“彼”を捜すように念じた。


すでに私の意思からは切り離された左手首だったが、その前までは同じように“彼”を思っていたのだから、左手首にも納得がいかなかったのだろう。


その日から、毎夜毎晩左手首は常闇を這い廻り始めた。

私の意思とは関係なく、まるで自ら意思のあるように。

亡骸のない“彼”は、消えてしまったが、まだ何処かで生きているかもしれないと考えられるからだ。