左手は常闇を這う【短編】



しかしその日の“彼”はいつも通りではなかった。


今にして思えば、ということだが、“彼”は席を立ち、何処より鉈を持ち出して私の左手首を切り落とした。


私はただ悲鳴を上げ、その痛みに蹲り、その後を知らない。


気が付けば、ベッドに重く横たわり呻きを上げながら“彼”を視野の中に探し続けた。


しかし、二度と“彼”を見ることは適わなかったが。