左手は常闇を這う【短編】



ふと、その時“彼”は何かを云ったのだ。
おそらく誰に対して、というものではなく、独り言のように口の中でもごもごと何度も同じ台詞を繰り返したように思う。



勿論、その時の私と云えば相も変わらずどんよりしていた訳だから、“彼”がどんなことを云おうと関心など示すはずがない。


何故なら、【いつも】そうだったから。