左手は常闇を這う【短編】



その日は、前日の深夜から降り続いた霧雨のせいで一日中薄暗く、どんよりとした雨雲だけが活発に低い空を漂っていた。


と記憶している。
ただし、今となっては私の記憶など曖昧なこと他ならない。


ただ、そうであって欲しいという願望が混じっていないとは到底云い切れないからだ。


そして、私が記憶している“一”のものを補う“彼”はもう居ないからだ。