あー疲れたと言いながら、ルークが椅子に腰掛ける。今日は厄日かと思えるくらい、先生に集中攻撃されていたのを思い出し、シンは苦笑する。


「やっぱり、活字は今でも駄目なんだね」

「まぁな」

「僕からしたらヒーローみたいな存在だよ、ルークは。……たぶん、アリスもそう思ってるんじゃないかな」



アリス。


シンが大切に想っている少女で、幼なじみ。



最近は顔すら合わせたことがない。それはシンも同じで、学舎に入ってからは一度もない。しかもアリスは、ルクス国の中でもさる名家の少女である。自由に出歩くことも制限されており、よくアリスが抜け出しては大騒ぎになっていた。


王家すらも頭が上がらないと、そんな噂までもがある。あくまでも風の噂だが。


カタカタ。


料理を乗せたワゴンが止まる。青年が微笑む。


「ルークもシンも、美味しいものでも食べて落ち着かないか?」


皿の上にはフルーツがたくさん盛られたパンケーキ、香草のパンが乗っている。それから紅茶。


「そうだな。サンキュー」



ルークは礼を言い、それからーー。



「シンに分けてやるよ。好きだろ、柑橘類」



ああ、まだ覚えててくれたんだ。シンの胸にあたたかなものが広がる。


「……ありがとう」


「普通だって」


いつものやり取り、いつもの、風景。