「そうだよ。拓哉も父親になれば分かるよ」



美綺の声を聞く限り、アイツのことを恨んでるってことはないみたいだ。



「……そりゃあ憎かったよ。いっぱい泣いたし、それなりにいっぱい辛い想いもしたし。でも今は、拓哉のこと憎んでなんてないよ。確かに辛い想いいっぱいさせられたけど……それでも拓哉は、あたしが初めて好きになった人だもん。……この恋はきっと忘れないよ」



美綺の言葉を聞いたら、なんだか胸が痛くなった



なんで……なんで美綺はアイツを許せるんだよ。



美綺はアイツにいっぱい傷付けられたのに。



なんで……。



そう思ってた答えは、すぐに出た。



「そんなの簡単だよ。今が幸せだからだよ」



"今が幸せだからだよ"



美綺は今、確かにそう言った。



「今が幸せだから拓哉のこと許せたんだよ。……もし幸せじゃなかったら、あたしはきっと今も拓哉のこと憎んでたと思う」



美綺の声がハッキリと聞こえてくる。



「でもね……あたしは今すっごく幸せなんだ。あたしの側に居てくれる人が居て、大事な家族が居るから」



俺は美綺の会話を、黙って聞いていた。



「……うん。あたしが幸せになれたのも、拓哉のおかげでもあるし」



美綺の言葉は、なぜか無性に俺をドキドキさせる。



「拓哉と別れてなかったら、あたしは流二と出会ってなかった訳だし、子どもだって居なかったよ。だからあたしが幸せになれたのはある意味拓哉のおかげだよ。……ありがとう拓哉」



なんだか、ヤキモチ妬いてた自分が今まで以上に情けなく感じた。



美綺は、俺と出会ったことで"幸せになれた"って言ってくれた。



"俺と出会えたよかった"



そんなこと言ってくれたのは、美綺しか居なかった。



美綺と出会うまで、“俺と出会えてよかった”なんて言ってくれたヤツは誰一人居なかった。



みんな“体だけで繋がっていればそれでいい”……そう思ってたヤツばっかりだった。



例え俺を好きじゃなくても、体だけで繋がっていればいいんだって、みんなはそんな風に思ってたから。