「何?」 聞いた。 「次に弾く女の子がさ、ピアノの椅子に座った瞬間、指パキパキ鳴らし始めたんだよね。」 私はテーブルに乗せていた手を滑らせそうになった。 「ホール中がどよめいてんのに、その子は全然気にしてないみたいで、演奏始めた。」 「それって。」 「喧嘩しに行くんじゃないんだから、ってずっと思ってた。」 笑う江鳩くん。 私は頬が紅潮した。 「後から彼女の友達なんだって聞いた。」 江鳩くんはこっちを見る。 「…それは…っ。」 小さい時からの癖で…。