「帰らない」


いつもの誘う眼じゃない。

それはすがるように俺を見据えていた。




帰らないで
ずっと一緒にいて

でもこれは望まない。




泣きそうな顔が近付いてくる。
玄関の段差もあって、彼女の背伸びだけでは届かない。

大人しく顔を引き寄せられた。





触れるだけのキス。

これでいい。
さいごのキスにピッタリだ。





意を決した彼女の顔を見て言った。

「駄目だ」

俺も泣きそうになる。




しかし、彼女は自分のシャツのボタンを一つ一つ外してゆく。


だめだ。これ以上は。




暗がりでも淡い色だとわかる下着が見えた。


「やめなさい」


五つ目のボタンにかけた手を掴んだ。

ほんの少しこの手を動かせば、胸に触れる。




「どうして?」


彼女はついに涙を落して、俺を睨んだ。





ごめん

ごめん


俺は世界一酷い男だ。








「まだ、陽南がこどもだから」