間近に山が迫り、荷馬車が横道に入ったとたん、その乗り心地は最悪になった。


舗装してない砂利道の上、舌を噛みそうなくらいガタガタと上下に揺れながら、それでも疾風は一定の速度を保って歩き続けた。


身体ごと揺さぶられ、噛み合わない顎を必死に押さえ、

あたしは、耐え切れず、声を上げた。



「とぉ~めぇ~てぇぇぇ~」



長が手綱をキュッと引くと、疾風が一足振り上げて止まった。


「どうしたかえ? かわやかえ?」


長が心配顔で振り向いた。


「あたし、歩きます。このまま揺れてたら、頭が変になっちゃいそうです」

「夢子ちゃんは、姫じゃのう。見てみぃ、他の二人を」


見ると翔も百地も荷物に寄りかかかって、すっかりいい気分で眠っていた。


「歩くにはまだ先が長いでのう、夢子ちゃんは、こっちに来るといい」


長が目を細めて手招きする。

どうやら、御者席に座れということらしい。

あたしは、立ち上がると、荷台の隙間を縫うように足を運び、なんとか御者席へとたどり着いた。