角まで差し掛かって無意識に足が止まった。
いや、地面に強力な接着剤か何かが塗布されていて、靴が足が離れない感覚に近い。
「こえぇよ」
この角を曲がったら死体が転がっている。
本来だったら自分がそうなっている姿がそこにあるんだ。
ただの転落死した人間の亡骸じゃない。
それは、数刻前までの自分のなれの果ての姿。その写しが転がっているのだ。
オレは激しくなる動悸を抑えるように胸に手をあてながら、角を曲がった。
無意識にそこに焦点が合わないようにぼんやりと眺めているのが分かった。
それでも確かに地面には何かがいる。いや、何かがある。
オレは意を決してそちらへと視線を下げていく。
「それじゃあ、手紙は受けとりましたぁ」
目を離した訳じゃない。
瞬きだってしていなかっただろう。
濃い緑色の制服に、鞄をぶら下げた男が軽薄そうにそう言って消えた。
「なんだったんだ今の?」
いつの間にか現れて、脱帽しながら死体に頭を下げて、瞬く間に消えた。
だが今はそれどころじゃあない。
「うっぷ。おぇぇええつ」
直視した死体は頭部の損壊が激しくて、オレは胃の中から込み上げるものを全て地面に吐き出した。
身体中がガタガタと震えて、情けないことに涙も鼻水もボタボタとこぼれ落ちていく。
ゆっくりと四つ這いになりながら近づいていき、うつ伏せに果てた死体の尻ポケットを探るが何もない。
ゆっくりと慎重にオレは彼の亡骸を仰向けにする。
泳いだ視点が見たくもない彼の頭部を写したときにまたオレは胃から透明な液体を吐き出した。
ズボンの両ポケットにもない。
残るは真っ赤に染めあげられてしまった胸ポケットくらいだろうか。
まだ乾いていない血がぬるっと滑った。
オレは意を決して彼の胸ポケットを探る。
そこからは八折りにされ小さくなった紙が出てきた。
ひらいてみるとA4紙を半分に裁断したものくらいの小さな小さな手記だった。



