歩はゆっくりと目を開け、そして口角を一生懸命に上げた。
「"過去のあなた"や"未来のあなた"に届けたいものはありませんかね?」
僅かに指が動いたが、また力なくシーツに埋もれる。
歩にはもう手紙を書く力などなかった。
「喋れますか?特例でアタシの代筆が認められることもあるんス。歩さん、あなたの場合なら問題はない」
震えながら開く口。
「ぼ、くは……まだ……ここ、に……いる、よ」
男は白い便箋に言葉を綴った。
「確かに代わりに書かせて頂きましたよ。これを何時のあなたに届けますか?」
白い便箋を丁寧に、肩からぶらさげている、深緑のバッグにしまう。
「……あ……した」
「宛先は"明日のあなた"で良いんスね?」
歩が首を少しだけ縦に振るのを見て男は深々とお辞儀をすると、闇の中へと消えていった。



