月と太陽の事件簿6/夜の蝶は血とナイフの夢を見る

「これは運命なのよ、久志くん」

しのぶは手にしていたポーチを開けた。

そこから取り出されたのは、手術用のメスを思わせる片刃のナイフ。

「お願い、あたしの望みを叶えて…」

しのぶはうっとりとした表情でナイフを差し出した。

東の背筋に冷たいものが走った。

抗えない自分がそこにいたからだ。

ゆっくりと、震える手でナイフに手を伸ばす。

その時かすかに風が吹きブナの木を揺らした。

葉のざわめきが耳に届き東はほんの少しだけ自分を取り戻した。

チャンスだった。

次の瞬間、東はしのぶに背を向けると、その場から走り出した。

公園の柵を乗り越え、全力で走った。

必死だった。

ー逃げなければ、殺してしまうー

東はどこまでもどこまでも、走り続けた。