「なあ三塚」

書き物をしていた本官は、手を止めずに返事をします。

「なんですか」

少し慳貪(ケンドン)に過ぎた気もしたのでもう一度、今度は中島先輩へ振り返って答えました。

「どうかしましたか?」

中島先輩は眉間にシワを寄せ、キャスター付きの事務椅子に座ったまま、ガラガラと滑ってきます。

「俺が席をはずしてる間にトネさんは来たか?」

トネさんはパチンコ屋の景品交換所で働いているお婆さんでした。

「いいえ。本官は記帳の雑務を行っていましたので、気付かなかったのでは」

中島さんが居ないのを見て、黙って通り過ぎたのだと本官は考えたのです。