「……あ、そういえば、姫さんが帰って来る前話してた時にさ、気になること言ってたかも」


しばらく考えていたナオちゃんが、思い出したと言うように掌をパンっと叩く。


「気になることって?」


「んー……なんか、『俺には時間がない』みたいな。正確には覚えてないけど」


『時間がない』って何?どういうこと?あの感じだったら病気なわけでもないし、高校教師だから遠いところに赴任とかもないだろうに。


私が疑問に思っている間にも、ナオちゃんは記憶を頼りに推測を立てていたようで、真剣な顔をして話し出す。


「俺さ、思うにあいつ婚約者がいると思うんだ」


「こ、婚約者?ナオちゃんどうしてそう思うの?」


確か、婚約指輪なんかつけてなかったよね?さっきのことを思い出しても、ついてなかったと思うんだけど。


「いや、微かに左手の薬指に指輪焼けがあったからさ」


常に裸眼なくらい視力の良い、しかも良く人のことを見れるナオちゃんが言うんだ、間違いないだろう。


でも、それじゃあ尚更、秋斗の行動の真意が分からないよ。