「随分、本当に随分お久しぶりですね。姫子さん」


「すみません、仕事が忙しかったもので……」


でも、姫さんと正反対なのは、上品なんだけどキツイ口調。姫さんは明るくて、だけど角のないまろやかな声色だから、全然違う。


いつもの姫さんのその明るくてまろやかな声は、お母さんの前だとギザギザの棘を生やすようだ。


「……ところで、そちらはどちら様?智さんのご友人か何かかしら?」


お母さんの鋭い目線が、今度は俺に向かって攻撃をする。


「あー……こいつは、あれだ」


智さんが説明しようと口を開くのを制止して、鼻から思いっきり息を吸って緊張を少しだけ和らげる。


こういうことは、自分で言うべきだ。他の人に言わせるなんて情けない。


「僕、姫子さんとお付き合いさせていただいてます、広瀬尚志です!」


落ち着いた雰囲気を出したかったのに、結局緊張に負けて、それでもなんとか勢い任せに叫んで、頭を下げた。