姫さんがインターフォンを鳴らすと、いよいよこの時が来たんだって改めて思って、体中の臓器の何から何まで吐いてしまいそうな程に緊張が高まる。


しばらくすると、『はい、どちら様でしょう?』という、上品な中年女性の風鈴みたいな静かな美しい声が聞こえて来る。


「私、姫子です。智も一緒」


姫さんは、お母さん相手なのになんだか不機嫌な声で淡々と言う。


インターフォンの越しの音がなくなり、代わりに奥から足音が微かに聞こえる。


つ……遂に対面の時。往生際悪いけど、ちょっと、ホントにほんのちょっとで良いから時間よ止まれ、と不毛なことを考えてしまう。


しばらくすると和式の引き戸がガラガラっと開き、姫さんのお母さんが現れた。


優しい抹茶色の着物を纏った女性。日本女性らしい、しゃんとした佇まいがとても綺麗だと思った。


「お母さん、お久しぶりです」


姫さんはいつになく美しいお辞儀をし、目の前の女性と同じくしゃんとした姿勢になる。


姫さんのお母さんは、年相応の美しさ、という感じで、どことなく姫さんと似た綺麗めな印象の容姿。