「――っえ?」
洋服の裾をギュッと握りながら涙を堪えるあたしに、有無を言わせない彼。
一旦部屋に戻り、羽織のシャツと紙袋を持ってきた。
傘立てから、二本ビニール傘を取り出すと、「ん」と不器用に一本をあたしに渡す。
ガラガラっと玄関のドアを開けると、一気に雨の音が大きくなった。
分厚い灰色の雲からは、大粒の雨が落ちてきている。
足元で泥が跳ねて、歩く度にしつこく付きまとう。
小さなビニール傘は、かろうじてあたしの顔だけを守ってくれていた。
「ひっでぇ雨」
隣を歩く彼の声ですら、全神経を耳に集中させなければ、聞き取ることが難しい。
「どこ行くの?」
「いいから、黙って着いて来い」
「……」
紙袋を腕に抱えて、大事そうに雨から守る彼の横顔を見て、また、前を向く。
未だにこの街の地理を理解していないあたしは、ただ黙って彼の隣を歩いた。
教会を出てしばらく二人で歩いて、あの日に真由がアイスココアを勧めてくれたお店を通り過ぎて、駅の前で足を止めた。
その頃には、着替えがほしいくらいびちゃびちゃで、ハンカチなんてかわいい小物は、なんの役にも立たなかった。
「ちょっと、ここで待ってて。切符買ってくる」
雨が入り込んでこない場所まで移動して、彼の指示通り大人しく待つ。



