「蔵島君、早くこっちっ!」
部室の前で手招きする真由が、恭平に向って声を張った。
恭平は、一旦あたしに目を向けて何か言いたげだったが、すぐに部室へと走って行った。
「平岡先輩、すみませんでした。
突然こんな事をお願いして」
あたしが深々と頭を下げると、
「真由ちゃんから事情は全て聞いたよ」
大変だったなと、優しい口調で言ってくれた。
「受験前で大変なのに……」
「新森、言っとくけど、俺の頭はいい方なんだぜ?
今日一日勉強をサボったぐらいじゃ、そんなに差は出ないよ。むしろ、いい息抜きだ」
先輩はグラウンドに向かう途中、『それに――』と付け足して、くるりとあたしを振り向いた。
「あの時言っただろ? 野球やる気になったら、俺が面倒みてやるって――。
俺、約束は守る男だぞ」
平岡先輩はニッと笑い、片手をあげながらグラウンドに走っていく。
そして、『試合始めんぞっ!』とみんなに声を掛けていた。
『プレイボール』
試合開始の合図とともに、ベンチに座る部員の声が寒空の下に響いた。
ピッチャーは、平岡先輩。
力強い一球を投げると、パァーンと耳に残る軽快な音がグラウンド中に響き渡った。



