翌朝、昨日の彼の表情が気になって、あたしはまた昨日と同じ道を歩いていた。


あれだけ真由に『別に気になるわけじゃ』なんて言ったのに、あんな表情を見せられると無条件で気になるわけで。


昨日焦りながら走った道を、今日は少しだけゆっくり歩いてみる。


昨日と同じ時間帯に行けば、もしかしたらまたあそこにいるかもしれないと思って。


確かなものはないけれど、空振り覚悟で行くしかない。


今のあたしには、あの教会までの道しか頭の地図にインプットされていないから。


木々のトンネルを歩いていると、またあの柔らかい音色が聞こえてきた。


いつも、この時間帯に弾いているのかな。


なんだか、とても心が落ち着く。


彼に話す内容を考えてガチガチになった体が、徐々にほぐれてくる。


あたしは、教会の前に植えてある一本の木の前で彼を待っていた。


すると数分もしないうちに、昨日と同じ場所から彼が出てきた。


門を開けて、落としていた視線を彼がパッと上げる。


その瞬間に確実に合った視線。


「おはよ」


声をかけると、彼は怪訝な表情をあたしに向けてきた。


そして、門の横から真っ赤な自転車を引っ張り出す。


自転車まで真っ赤……


彼は自転車を押すと、あたしを無視して歩きだした。


「っえ、ちょっと待って!」


昨日と違って、今日はちゃんと声が出る。


あたしは小走りで、彼の後ろに陣取った。