大学入学と同時に、あたしは生まれて初めての経験を二つした。
ひとつは、一人暮らし。
大学から実家までは電車で片道2時間の距離で、通学しようと思えば出来る距離だった。
一限目の講義が始まるのは朝9時。
それに間に合うように大学に着くには家を6時過ぎには出ないといけない。
朝に弱い娘の性格を知り尽くした両親は「四年間も続くわけがない」と、大学周辺に立ち並ぶアパートの一室をあたしに与えた。
新築の、エレベーターのない四階建てのアパート。
そこの三階の一番端の1DKの部屋があたしの城となった。
制約のない、たった一人の世界は寂しいどころか快適そのものだった。
二つめは、コンビニでのバイト。
高校入学と同時にバイトが解禁になって、最初にやりたかったバイトはコンビニだった。
だけど、人気と比例して競争倍率が高いうえに、高校生を雇ってくれるコンビニは数える程度しかなくて。
高校からの親友で同じ大学に入学し、やはり一人暮らしをすることになった諒子。
諒子はあたしよりもいち早くコンビニでのバイトを手に入れた。
いいなぁと恨めしそうに言っていたあたしのことをちゃんと覚えていてくれたらしく、バイトに欠員が出たからといって諒子が誘ってくれたのは大学一年の秋だった。