朝方が近づくにつれ、車も、アーケードにいた若者たちも徐々に姿を消していく。
あたしもそれに流されるようにして、その日は帰った。
アパートに帰り着くと、寂しい空気が漂っている。
一瞬だけ、永輝の幻覚を見てしまう。
ソファに座り、「柚羽」と静かに、ゆっくりと、あたしの名を呼ぶその声。
いつかきっと、その声で終わりを告げてもらうんだと、あたしは覚悟を決めていた。
テーブルに置かれた、主人を待つ灰皿。
思い切ってゴミ箱に捨てた後、しばらく考えて拾い上げた。
あたしの覚悟なんて、こんなもんだ。
また、永輝が使う時が来るんじゃないかと、心のどこかで期待している自分がいる。
永輝に終わりを告げられた時、あたしはどんな顔をするのだろう。
どんな言葉を発するのだろう。
19年間付き合ってきた自分自身のことなのに、今のあたしには想像がつかなかった。