「あの……俺……」 言うべきじゃない。 言ったら、すべてが崩れてしまう。 必死に抗いながらも、心のどこかに“今しかない”と急き立てる自分がいる。 返事に躊躇していると、夜空を見ていた優菜さんが視線を落とし、俺の方に向き直った。 長い沈黙のなか、優菜さんは俺の言葉を待っている。 「――俺の好きな人は……」 言いかけて、ふと優菜さんの言葉を思い返してみる。 優菜さんは、“好きな人って誰?”と訊いたわけじゃない。 “どんな人?”って訊いてきたんだ。 「とても優しい人です」 「……そっかぁ」