車から飛び出すようにして降りた奈緒ちゃんは、アパートの前に集まった野次馬の波をかきわけていく。 俺も遅れて奈緒ちゃんの後を追いかけた。 「……奈緒……っ!」 「――――っ!」 確かに聞こえたのは、俺がずっと待ち続けていた愛しい人の声。 同時に、無事でよかったと、安堵感に包まれる。 「お母さんっ! よかった……っ」 奈緒ちゃんの泣き崩れる後ろ姿を目で追いながら、俺もその場に駆けつける。 「優菜……っ」 叫ぶようにその名を呼ぶと、彼女の身体が一瞬だけ固まったのが分かった。