「……それに……」
奈緒ちゃんが俺の方に身体を向ける姿が、視界の隅に入った。
一瞬だけ、ちらりと奈緒ちゃんの方を見る。
「今はね、お母さんの実家の近くにアパートを借りて、そこに住んでいるの」
「へぇ……」
「あー、そんなことどうでもいいか。お兄ちゃんが一番聞きたいのは、お母さんのことでしょう?」
指摘されて、それがあまりにも図星だったもんだから、思わずハンドル操作を誤りそうになった。
「……でもその前に、ひとつ教えて。お兄ちゃん、結婚してるの?」
ずっと順調に進んでいた道のり。
もうすぐ高速道路の乗り口というところで、タイミング悪く赤信号に引っかかった。


