優菜さんがリビングのドアを開けた瞬間。
徐々に速度を増していたはずの心臓の鼓動が、一瞬、止まりかけたような気がした。
「……優菜さん……」
開かれたドアの向こう。
リビングの一角には、大小無数のダンボール箱が積まれていた。
家族で囲んでいたはずのダイニングテーブルは、どこにもない。
あの日、奈緒ちゃんたちが肩を並べて座っていたソファも消えていた。
「缶コーヒーだけど、いいかな?」
すっかり変わってしまった部屋の様子に呆然となっている俺に、優菜さんは冷たい缶コーヒーを手渡した。
それから優菜さんは、木目のカウンタースツールを二つ運んできて並べると、リビングを見渡すような姿勢で腰を下ろした。


