「おとうとだけど、おとうとじゃない? よくわかんないよ、ママ」
困り顔で優菜さんに説明を求める奈緒ちゃん。
でも優菜さんは、多くを語らず、「大人になったら分かるわよ」と笑うだけに留めた。
五階についたところでエレベーターを降りる。
優菜さんの家は、いちばん角にあった。
「どうぞ」
ガチャリと開いたドア。
足を踏み入れると、靴箱の上に遠慮がちに置かれた芳香剤の匂いが、優しく鼻の奥に入り込んできた。
ふと靴箱に視線を送ると、艶やかな着物を着た奈緒ちゃんを中心にした家族写真が飾られていた。
奈緒ちゃんの右隣で、優しい笑みを浮かべるスーツ姿の男。
……優菜さんの旦那さんだ。


