「こんにちは。姉がいつもお世話になっています」
「あらまぁ、しっかりした弟さんだこと」
オバサンは、優菜さんの嘘と俺の演技にすっかり騙されて、感心したように俺を見上げた。
「それじゃ」
優菜さんは焦る素振りも見せず、ゆったりとした歩調でその場をあとにする。
俺もまた、「失礼します」なんて、ご丁寧に頭を下げて優菜さんのあとに続いた。
「おにいちゃん、ママのおとうとなの?」
他人への嘘のあとは、身内への弁解。
エレベーターのなかで、奈緒ちゃんがきょとんとした顔で訊いてきた。
「そう、弟。でも、本当の弟じゃないのよ」
優菜さんは、奈緒ちゃんににこりと笑って言う。


