「こんにちはー。いま帰ったところです」 オバサンの視線が優菜さんを飛び越えて、俺のところに届く。 「あら、こちらは?」 ギラギラした目つきで、俺を見るオバサン。 それはまるで、何かを期待しているような雰囲気だ。 でも優菜さんは、臆することなく、堂々とした態度で答えた。 「弟の雅人です。大学が夏休みに入って、いま遊びに来ているんです」 弟――…… そんな嘘をつく理由は分かっていた。 パート先の店でバイトしている大学生なんて、バカ正直に言ってしまったら、色々と勘ぐられるに違いないから。