カバンを持ち、ゆっくりとした足取りで部室を出た。春の暖かな日差しが俺を包む。コートの方からは球が打たれる聞き慣れた音が響いてきた。
“テニス部で待ってるよ”、か。
まるでもう、俺がテニス部に入るのが決まってるような言い方だったな。まぁ、実際決めてるけど。
フェンスに沿って校舎までの道のりを歩いていると、更衣室から出てきた大崎先輩と出くわした。今度は俺から声をかける。
「今日、アンタと話せてよかったです。ありがとうございました、陽路先輩。」
「おぅ!」
名前で呼んで、俺なりの敬意を込めて。
ちゃんと陽路先輩には伝わったようで、ニコリと笑ってくれた。

