市橋くんが言うように。
あたしも、挑発された武人が何か言い返すだろうと思っていた。
――なのに……
ただ怒りを表すだけで、固く閉ざされた唇からは何の言葉も出てこなかった。
どうして?
いつもの調子で言い返せばいいのに……。
なんで、黙っているわけ?
なんで……、あたしを振り切って行ってしまったの?
「今はそっとしておいた方がいいかもなー。……ってことでさ、これから昼メシ食いに行かね?」
反省心ゼロの市橋くんは、にこりと笑ってあたしを誘う。
「……誰が行くかっ! 帰るっ!」
その余裕さが癇に障って、あたしは市橋くんに二度目の蹴りを入れると、講義室を足早に出て行った。


