この腕で、悦子さんを抱いたのか……。 元カノなんだし、当たり前でしょ? 嫉妬してどうするよ? そう自分に言い聞かせるものの、やっぱり気持ちが沈んでしまう。 「聞いてる? 梓ちゃん」 「おい、金森ー」 ――げっ…… 聞きなれた声が、あたしの背中の方から武人を呼ぶ。 振り返って確認するまでもない。 市橋くんだ。 「なんだよ。講義が始まったら自分の席に戻るし」 市橋くんの席はあたしの前の席。 講義が始まるまでのあいだ、毎回、武人がそこを占領してしまっている。