「――市橋に未練があったのか?」 俺が訊くと、梓は顔を歪ませて否定する。 「未練なんかあるわけないでしょう? あたしは武人を……」 「じゃあなんで、あんなことになったんだよ」 「………」 どうして、と、問うているのに。 梓はしばらく黙ったあと、か細い声で“ごめん”としか言わない。 「梓。どうして、市橋と? 同意の上だったのか?」 ――まるで、事情聴取だ。 責め立てるようにして訊く俺を、梓はちらりと見て、呟くように話し始めた。