坂崎が見たのは、たくさんの白菊を手向けられた、『お地蔵様』だったと言う。


真っ暗な闇の中。


車を降りて一人、『お地蔵様』に向かってスタスタと歩いていく自分の姿を思い浮かべた時。


正直、それが、一番怖い瞬間だった――。


後に俺は、昔その界隈で銀行強盗に連れ回された女性行員が惨殺され、その霊がさまよい出るのだと言う噂を聞いた。


だが、その行員が『あの女』だったのかは確かめる術もなく、分からずじまいだった。


ただ、あれ以来。


代行の仕事の時は必ず自前の水筒を用意するようになり、


俺が、『夜の自動販売機』で飲み物を買うことは、決してなかった。



    ―了―