「目が覚めたら車が止まって、田口さんはいない。


ひょいと前を見たら田口さんがボウッと突っ立ってさらに前を見詰めてる。


んで、俺もそっちを見てみたら、白いハイヒールだけが闇にチラチラ浮かび上がって近づいてくる。


もうこりゃぁヤバイっつうんで、クラクションを鳴らしたんですよ」


「そうか……」


闇に浮かび上がる、白いハイヒール。


もしもあの時、坂崎が眠ったままだったら、俺はいったいどうなっていたんだろうか?


「ありがとう、お陰で助かったよ」


命の恩人に心底から礼を言う。


俺はハンドルを握る手に力を込めると、気を引き締めて前方を真っ直ぐ見つめる。


二度と、あんな思いはゴメンだ。


もう、このルートを使うのは絶対止めようと、俺は固く心に誓った。