沙希は、
新庄沙希という人間は、親友を裏切れるような人間じゃない。
それは、物心付いてからいつも一緒にいた私が、一番良く知っている。
「あなたは、沙希じゃない。沙希は私を裏切ったりしない」
脳に直に伝わるリアルな沙希のビジョンを振り払うように、私は静かに口を開いた。
『何を言っているの? ほら、私は沙希よ』
「あなたは、沙希じゃない」
真っ直ぐ前を見据えて言い放つ。
「だから来ないで。何処かに消えてっ!」
次の瞬間、私の叫び声と重なるように、大きな破裂音が響き渡った。
「香織、おい香織! しっかりしろ。惑わされるな!」
東悟の声で現実に引き戻された私は、今体験したことが、心の中での出来事だったことを知った。
周りは、深い闇。
私は、東悟に抱きしめられたままの状態で、闇に閉ざされた本殿の中で佇んでいた。
「東……悟」
まるで静電気を帯びたように、ピリピリと空気が震えている。
背筋を、ゾクゾクと悪寒が駆け抜た。
私は、本殿の中に満ちて行く、凶悪で禍々しい気配に思わず言葉を無くした。



